最近メディアで頻繁に使われる“スタートアップ”という言葉があります。これまでは立ち上がったばかりの若い会社は“ベンチャー企業”と呼ばれることが多く、今も日本ではこれらが同義の認識で使用されているケースが散見されますが、実際にはこの2つのは似て非なるものです。以下で解説していきたいと思います。
ベンチャー企業とは?
そもそもベンチャー企業という単語は、「アドベンチャー(adventure)」を元に日本人が作った和製英語になります。一般的に英語でVentureというと、Venture Capitalといった投資を行う側の企業を指します。また、こうしたVCから投資をうけている企業をVenture-backed companyと呼んだり、VCがソーシングする対象の企業をVenture Business(VB)と表現したりします。日本で生まれたベンチャー企業という言葉は、非常に幅広い意味合いで使われています。
現在では成長過程の企業を指す言葉として、幅広い意味で使われています。ベンチャー企業として明確な条件は定められていませんが、一般的には以下の特徴で判断されます。
- 既存のビジネスモデルを元に新しいサービスを作り出す
- 設立から間もない
- 主にスモールビジネスを扱う
- 小規模から中規模の企業
- 社員数が少ない
スタートアップ企業とは?
スタートアップという言葉は、シリコンバレーで使われ始めた英語として日本に入ってきました。スタートアップが指す企業として挙げられるのは、Google、Amazon、facebook、Uberといった、イノベーションを起して短期間のうちに圧倒的な成長率で事業を展開する企業です。設立年がいつかということよりも、そのビジネスモデルの革新性、解決される社会課題の大きさ、そしてIPOやM&AといったExit戦略がある企業のことを指します。VCが出資をしていなくとも、上記点に当てはまる会社であればスタートアップとなりますが、現実的にはVCの出資を受けている場合がほとんどです。
ベンチャーとスタートアップの違い
ベンチャーとスタートアップにはさまざまな違いがありますが、そのなかで特に注目すべき点が以下の4つです。
- 革新性があるか
- 成長率の高さ
- EXIT(出口戦略)
- 資本調達の方法
それぞれを詳しく紹介します。
革新性があるか
ベンチャーとスタートアップの大きな違いは、革新性があるかどうかです。まずベンチャーは「持続的イノベーション」です。既存のビジネスモデルをベースとし、そこに独自の変化や工夫を加えて新たなサービスを生み出します。例えば日本では「ソフトバンク」が当てはまります。既存の通信業や流通業をベースに拡大していき、その後投資ビジネスなど領域を広げていきました。逆にスタートアップは「破壊的イノベーション」です。今までの常識を壊して新たな価値観を生み出し、過去に事例のない新規ビジネスを展開します。今までどの企業も手を付けていないかった革新的なアイデアを元にビジネスモデルが作られるため、最初は需要も認知もなく手探り状態でのスタートとなります。まとめると、ベンチャーは既にあるビジネスモデルに工夫を加えてサービスを作る、スタートアップは革新的なアイデアでこれまでになかった新しいサービスを作り出す企業です。
短期間での劇的な成長を目指す
ベンチャーとスタートアップには成長率で大きな違いがあります。ベンチャーは既存のビジネスモデルを利用するため、初期からある程度の収益を確立させられます。そこから黒字を維持しつつリスクの少ない経営を目指し、長期的にゆっくりと成長していきます。対してスタートアップはそれまでなかった価値観を作り出してビジネスを展開するため、プロダクトやサービスが完成するまでは収益がほとんど期待できません。この状態は「死の谷(Valley of Death)」と呼ばれ、設立から数年は赤字が続くことがほとんどです。ただ、そこを抜けて世の中にイノベーションを起こすことができれば、市場の拡大とともに急激な成長を遂げることができます。つまり、ベンチャーは長期的で安定した成長、スタートアップは短期的で急激な成長を目指す違いがあります。
出口戦略 (EXIT)があるかどうか
まず 出口戦略(EXIT)とは、起業家が興した事業を何らかの手段で他の人に渡すことを指します。簡単に言うと「出資者が企業に出資した資金を回収する」ことです。EXITには大きく分けて2つの方法があります。
- IPO(新規株式公開):証券取引所に上場させて株式を外部に譲渡することで出資者が資金回収を行うこと。
- M&A(合併・買収):企業を売却して多額の資金を手に入れ、そのなかから出資者社が資金回収を行うこと
まずベンチャーは既存のビジネスモデルを長期的に拡大させていくため、EXITにたどり着くまでの時間が長めのイメージです。またIPOでのEXITが多く、上場したあとも売却せずに経営陣がそのまま変わらず、成長していく企業も少なくありません。対してスタートアップは、起業する初期段階からEXITも意識して事業を拡大していくため短期間での利益回収を目指します。特にM&AでのEXITが増えていて、スタートアップを成功させてすぐに売却、これを繰り返す「連続起業家」も多くいます。
資本調達法の違い
ベンチャーとスタートアップは資本の調達方法が大きく異なります。ベンチャーは既存のビジネスモデルを元に着実な成長を目指すため、初期段階から一定の収益が見込めます。そのため信頼性が高く、銀行からの融資や助成金などを利用して資金調達できます。一方、スタートアップは新たなビジネスモデルを一から作り出すため、失敗するリスクも当然高く、初期段階では需要や知名度がないことから、ほとんど収益が見込めません。そのため信頼性が低く、銀行から融資を受けることはほぼ不可能です。 その代わりにスタートアップ企業は、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家など未来の成長に重点を置いている投資家から資金調達を行います。
ベンチャーとスタートアップで働くメリット・デメリット
ここからは、ベンチャーとスタートアップで働くメリットやデメリットを紹介します。
メリット
ベンチャーやスタートアップで働くメリットは以下の6つです。
- 働き方の自由度が高い
- 幅広い分野の仕事を網羅できる
- 自分が手がけたことが、社会課題や事業に直結しているため、やりがいを多く感じることができる
- 社内の風通しが良い
- 経営層や上司、関連する部署や組織の距離が近く、意見を言いやすい
- 年齢・社歴に関係なく評価される
リモートワークやフレックス制など新しい働き方を積極的に取り入れている企業が多いため、働く場所や時間を自分で決められて自由に働くことができます。また、社員数が少ないことで、1人で担当する仕事の幅が広く、さまざまな分野の仕事を経験できます。そのなかで多くのことを学べて将来のキャリアアップにも生かしやすいため、やりがいを強く感じられるでしょう。社員数が少ないことは、社内の風通しの良さにも影響します。経営者や上司との距離が近く、自分の考えを伝えて意見交換することも可能です。大企業では直属の上司に意見を言ってもその上まで通してもらえないことが多いので、経営層とダイレクトにコミュニケーションを取れるのはベンチャーやスタートアップの大きな魅力です。加えて、年齢や社歴は関係なく、結果がそのまま評価に直結する場合が多いので、実力で勝負したいと考えている人にはとても良い環境だと思います。
デメリット
ベンチャーとスタートアップで働くデメリットは以下の4つです。
- 仕事量が多くハードワークになりがち
- 任される仕事の責任の大きさ
- 戦略・体制が変わることが多い
- 教育体制や福利厚生が整っていない場合がある
デメリットとして特に注意しなければいけないのが、仕事量が多いことです。社員数が少ないことから任される仕事が増え、残業時間が増えるなどハードワークになることもあります。また仕事内容は責任の大きいものが多く、その重圧からストレスがかかることもあると思います。加えて起業して間もない場合は資金面が充実しているわけではないので、退職金制度や保険などの福利厚生は整っていないケースが多いでしょう。なお、ベンチャーやスタートアップは事業の方向転換を頻繁に行うため、戦略がすぐに変わります。そのたびに仕事内容や周りの環境が変化するため、変化をすること自体が苦手な方にとっては大きなデメリットとなります。
ベンチャー、スタートアップに向いている人
特に以下の5つに当てはまる人はベンチャーやスタートアップに向いています。
- 主体性を持って仕事がしたい人
- 変化や挑戦を楽しめる人
- 好奇心に富み、情報収集能力に長けている人
- 新たなビジネスに携わりたい人
- 今後起業や独立を考えている人 それぞれ詳しく紹介します。
主体性を持って仕事がしたい人
ベンチャーやスタートアップは主体性を持って仕事を進めていきたいと考えている人におすすめです。ベンチャーやスタートアップは少数精鋭で構成されることが多く、若手でも裁量のある仕事を任せられます。上司からの指示を待つのではなく、社員一人一人が会社を動かす意識を持つことが大切です。また、研修制度やマニュアルなどは整っていない場合が多いので、自分で勉強したり質問したりして成長しなければいけません。そのため「自ら型作りや道を切り開いていきたい」「自分の意思で行動できる」方はベンチャーやスタートアップがおすすめです。
変化や挑戦を楽しめる人
ベンチャーやスタートアップは経営方針や事業内容の変更が多々起こります。そのたびに組織変更や体制変更が行われ、周りの環境が急激に変わることがよくあるのです。そういった変化や新たな環境での挑戦を楽しめる人は、ベンチャーやスタートアップに向いているでしょう。
好奇心に富み、情報収集能力に長けている人
ベンチャーやスタートアップは未開拓の分野で事業を展開することが多く、新たなテクノロジーの勉強が必要不可欠です。もしかしたら、知識も経験もない仕事をいきなり任せられる場合もあるかもしれません。そのときに新たな知識のインプットを楽しめる「好奇心」を持っていたり、最新情報を追いかける「情報収集能力」にたけていたりすると、大きなメリットとなるでしょう。
新たなビジネスに携わりたい人
ベンチャーやスタートアップは新規事業の立ち上げにスピード感があり、次なるビジネスモデルがどんどん生まれていきます。特にスタートアップは革新的なアイデアを打ち出していて、その最前線に関わることができるのです。そのため、新たなビジネスに関わりたいと考えている方はベンチャーやスタートアップがおすすめです。
今後起業や独立を考えている人
ベンチャーやスタートアップは社員数が少なく、経営者との距離感が近いのが特徴です。そのため、社長から直接指示を受けることも少なくありません。そのなかで経営に対する考え方やノウハウなど、普通に働いているだけでは知りえない知識を手に入れられます。将来起業や独立を考えている方にとって、ベンチャーやスタートアップで働いた経験は大いに役立つでしょう。
ベンチャーとスタートアップを選ぶときのポイント
ベンチャーやスタートアップで働きたいと考えている方に向けて、所属する企業を選ぶポイントを紹介します。特に意識すべきなのが以下の6つです。
- 経営陣のバックグラウンド
- マーケット環境や成長率
- 資金調達できているか
- 募集要項
- 実際に働いている方の意見 それぞれ詳しく紹介します。
経営陣のバックグラウンド
企業選びの際は経営陣のバックグラウンドが重要です。まずは経営陣がバックグラウンドを公開していることが前提です。まったく素性の分からない人が経営している会社は避けるべきでしょう。経営陣それぞれの実績や経歴を確認し、これなら信用できると思った企業を選ぶのが大切です。また、その際にどれくらい優秀な人材がいるのか、専門性のバランスが取れているかにも注目しましょう。その会社の将来性に大きく関わる要素です。
マーケット環境や成長率
企業を選ぶ際に必ず確認したいところは売上ですが、ベンチャーやスタートアップの場合は単に今の売上が良いかどうかだけではなく、伸び率も重要です。将来性のある企業かどうか見極めるための判断材料になります。現状の状況が多少ビハインドでも、前年より大幅に成長しているなら挑戦してみてもいいかもしれません。また、合わせてその企業が手がけるマーケット環境がどのようになっているか、その中でビジネスモデルや戦略がどのようになっているのかもできる限り、チェックしておきましょう。
資金調達ができているか
ベンチャーやスタートアップを選ぶ材料として資金調達ができているかどうかも重要です。事業を成長させていくためには、やはり資金力が重要になります。どれだけ良い人材が集まっていても、資金調達がうまくいかないと将来性はありません。また、資金調達ができているかは、会社の信頼度を示す指標でもあります。銀行や投資家は、うまくいくだろうと思った企業にしかお金を出しません。つまり、資金調達がうまくいっている企業は、社会からの信頼が厚く、期待度も高いということです。
募集要項
企業選びの際は募集要項を入念に確認しましょう。特に以下の2つが大切です。
- 自分の強みが生かせるか
- ビジョンや事業に共感できるか
これまでの経験や取得したスキルなど、自分の強みと業務内容が合っているかを必ず確認しましょう。得意分野で仕事ができた方が成果を出しやすく、キャリアアップにもつながります。また、ビジョンや事業に共感できるかも大切です。どれだけ仕事内容が合っていても、将来のビジョンが見えなかったり、事業の方向性に疑問があったりすると、長くは続けられません。
実際に働いている方から話を聞く
実際に働いている人の声を聞くことで職場の雰囲気が分かり、自分の働くイメージを強く持てます。実際に社員の方に会って話を聞くのが一番ですが、なかなかハードルが高いと考える方も多いでしょう。その場合は口コミサイトを参考にするのもおすすめです。働いている人にしか分からない情報もたくさん公開されています。